溶剤系塗料から水性塗料へ切り替えた後、「排水が白濁する」「PACを入れてもフロックができない」「SSは下がるのにCODが残る」といった問題が起こることがあります。

水性塗料は塗装工程の環境負荷低減に役立つ一方、水中で樹脂や顔料を安定分散させる設計です。その性質が、排水処理では凝集しにくさにつながる場合があります。対策は薬品の増量ではなく、新旧塗料の組成、洗浄方法、pH、溶解性成分を実排水で比較することから始めます。

「水性だから処理しやすい」とは限らない

水性塗料には、顔料、樹脂、界面活性剤・分散剤、消泡剤、増粘剤などが含まれます。水中で均一に保つため、粒子同士が簡単に集まらないよう設計されています。

排水処理の凝集は、その安定状態を崩し、微粒子を大きなフロックへまとめる操作です。塗料が変われば必要なpHや凝集剤も変わる可能性があります。

凝集しにくくなる5つの理由

1.界面活性剤・分散剤が粒子を安定化している

粒子表面の反発や保護層により、無機凝集剤を加えても十分に電荷が中和されないことがあります。過剰に薬品を加えると、pHが変わり、汚泥が増えても上澄みが改善しない場合があります。

2.樹脂成分が水中に溶解・乳化している

顔料などの粒子状成分は凝集で除去できても、溶解性・微細乳化状態の樹脂や有機成分は残ることがあります。その結果、SSは低下してもCODが下がりません。

3.塗料ごとに適正pHが異なる

塗料の樹脂系、顔料、添加剤が変わると、凝集しやすいpH範囲も変わります。既設のpH設定をそのまま使うと、フロックが細かくなることがあります。

4.切替・洗浄時の負荷が高い

塗料変更に伴い、配管・ガン・治具を水で洗う回数や量が増えると、短時間に高濃度排水が発生します。平均日量には表れにくく、均等化槽や薬注が追従できない原因になります。

5.既設設備の撹拌・沈降条件が合わない

ビーカーではフロックができても、実機の強い撹拌やポンプせん断で壊れる場合があります。沈殿槽の越流負荷や汚泥引抜きも確認します。

新旧塗料を比較するときの採水方法

排水を一括採水するのではなく、次の条件を分けます。

採水条件 確認したいこと
通常塗装時 平常負荷と既設処理の能力
色替え・品種切替時 塗料組成と混合の影響
初期洗浄水 最大濃度と別処理の必要性
後段すすぎ水 再利用・低負荷処理の可能性
凝集ろ過後 溶解性CODの残留割合

塗料名、色、樹脂系、使用量、洗浄剤、排水時刻も記録します。「何を流したときに崩れたか」が分かれば、固定条件からレシピ管理へ移行できます。

ジャーテストの進め方

  1. 原水のpH、COD、SS、色度を測る
  2. 複数のpH条件を作る
  3. 無機凝集剤の種類・量を比較する
  4. 高分子凝集剤の種類・量・添加順を比較する
  5. 急速・緩速撹拌と沈降時間をそろえる
  6. 上澄み水質、汚泥量、脱水性を測る

見た目だけでなく、処理目標と維持費を評価します。最小薬品量ではなく、放流水質・汚泥・運転安定性のバランスが良い条件を選びます。

凝集だけで足りない場合の次段処理

凝集後にCODや色度が残る場合は、残留成分の性質を調べます。

  • 活性炭:吸着しやすい溶解性有機物・色度
  • 生物処理:生分解できる有機成分
  • 酸化処理:対象成分の分解性と副生成物を評価
  • 膜処理:微粒子・溶解成分を分離。ただし濃縮水が残る

処理法は単独で決めず、実液試験と年間の薬品・電力・汚泥・交換材費で比較します。

運用で安定させるポイント

  • 高濃度の初期洗浄水を別槽へ受ける
  • 均等化槽の水量と撹拌を見直す
  • 塗料・色・洗浄ごとの排水記録を残す
  • pH計を定期校正し、薬注上限を設定する
  • 新しい塗料は量産前に実排水試験を行う
  • 処理水質だけでなく汚泥発生量も比較する

よくある質問

Q1.水性塗料に替えると必ず排水負荷が増えますか?

必ずではありません。塗料組成、塗着効率、洗浄方法、回収方法によります。切替前後の水量と汚濁負荷を測って評価します。

Q2.PACを増やせば解決しますか?

凝集条件が不足している場合は改善しますが、溶解性成分や分散剤の影響には限界があります。過剰添加は汚泥増加につながります。

Q3.SSが下がればCODも下がりますか?

粒子状CODは下がりますが、溶解性の樹脂・界面活性剤などが残ればCODは高いままです。ろ過前後で分析すると切り分けられます。

Q4.新しい塗料を導入する前に何をすべきですか?

想定する洗浄排水を作り、既設設備条件でジャーテストを行います。処理水質、薬品量、汚泥、実機への展開条件を確認します。

塗料切替前後の実排水を比較します

株式会社増澤技研では、新旧塗料の排水を用いた凝集試験から、薬注条件、洗浄排水の分別、既設設備の改造まで検討します。

参考資料

  • 環境省「一般排水基準」 https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html (2026年9月10日確認)
  • 環境省「排水処理技術事例」 https://www.env.go.jp/water/effluent_case/index.html (2026年9月10日確認)
  • A. Ucarほか「Treatment and recycling of highly polluted water-based paint wastewater」 https://doi.org/10.5004/dwt.2011.2111 (2026年9月10日確認)
  • Adnan Aldemirほか「Determination of optimum treatment conditions for paint industry wastewater with the coagulation/flocculation method」 https://doi.org/10.5004/dwt.2021.26624 (2026年9月10日確認)

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