水性塗料排水にPACを入れたところ、色は薄くなった。しかしCODは目標まで下がらない。このとき「凝集剤が足りない」と判断して薬品を増やすだけでは、処理が良くなるとは限りません。

結論:凝集沈殿で足りるかは、実排水の上澄み分析で決める

凝集沈殿は、水性塗料排水に含まれる顔料、塗料かす、凝集可能な樹脂粒子をまとめて固液分離する有力な前処理です。ただし、溶解性の樹脂や界面活性剤などは残る場合があります。

したがって処理方式は、「フロックができたか」だけでなく、次の結果を見て決めます。

  • 上澄みのCOD、SS、pH、色度
  • フロックの大きさ、沈降速度、ろ過・脱水性
  • 薬品添加量と発生汚泥量
  • 原水変動に対する再現性
  • 放流または再利用に必要な水質

凝集沈殿の役割

水中で安定して分散している微粒子は、そのままでは沈みにくい状態です。無機凝集剤で粒子表面の電荷を不安定化し、必要に応じて高分子凝集剤で大きなフロックへ成長させ、沈殿・浮上・ろ過などで分離します。

PACなどの無機凝集剤

PAC(ポリ塩化アルミニウム)は代表的な無機凝集剤です。必要量は塗料の種類、濃度、pH、アルカリ度、他成分によって変わります。多く入れれば必ず良いわけではなく、過剰添加で微細化や残留成分、汚泥増加につながることがあります。

高分子凝集剤

小さな凝集物を架橋し、大きく沈みやすいフロックへ育てます。アニオン・カチオン・ノニオンなどの型や分子量で相性が変わるため、製品名だけでは選べません。濃度、溶解熟成、注入位置、攪拌の強さも結果へ影響します。

pH調整

pHは凝集剤の反応と塗料粒子の安定性に影響します。水性塗料排水を対象とした査読研究でも、pH、凝集剤量、混和条件がCOD、TSS、色度、濁度の除去へ影響したと報告されています。ただし最適値は実験対象ごとの値であり、別工場へそのまま転用できません。

ジャーテストで変えるべき条件

一度にすべてを変えると原因が分からなくなります。まず原水をよく均一化し、次の順に条件を比較します。

  1. 無調整の原水性状を測定する
  2. 複数のpH条件を設定する
  3. 無機凝集剤の種類・添加量を段階的に変える
  4. 高分子凝集剤の型・添加量を比較する
  5. 急速攪拌、緩速攪拌、静置時間をそろえる
  6. 上澄み水質と汚泥量を測定する
  7. 別日の実排水でも再現性を確かめる

見た目だけで判定しない

大きなフロックが沈み、上澄みが透明に見えても、溶解性CODは残っている可能性があります。反対に、COD除去率が同等なら、沈降・脱水しやすく薬品量が少ない条件のほうが総コストを抑えられる場合があります。

薬品費ではなく総費用で比べる

比較するのは凝集剤の単価だけではありません。

  • pH調整剤と凝集剤の使用量
  • 発生汚泥の量と含水率
  • 攪拌・移送・脱水の電力
  • ろ布交換や清掃の作業時間
  • 後段処理への負荷

ジャーテスト時に汚泥量やろ過性も記録しておくと、設備運転の費用まで見通しやすくなります。

凝集沈殿だけで足りないサイン

次の状態があれば、凝集後の処理を検討します。

  • SSは下がるがCODが目標を超える
  • ろ過後のCODが原水に対して高い
  • 色や臭気、泡立ちが残る
  • 再利用水として求める品質に達しない
  • 凝集剤を増やしても除去率が頭打ちになる

候補となるのは、活性炭吸着、生物処理、酸化処理、膜ろ過などです。膜処理では濃縮水、活性炭では交換・再生、生物処理では阻害性や負荷変動を含めて評価します。

ベンチ試験から設備設計までの流れ

ステップ1:代表性のある実排水を用意する

通常時だけでなく、色替えや洗浄時のサンプルを採取し、発生工程、日時、塗料名、使用量を記録します。

ステップ2:要求水質を明確にする

放流先の基準、社内管理値、再利用先の品質を区別します。環境省の一律排水基準だけでなく、自治体条例、下水道の排除基準、個別協定も確認します。

ステップ3:ジャーテストと追加処理試験を行う

凝集上澄みが要求水質を満たさない場合は、その上澄みを用いて後段処理を比較します。前後段を別々の原水で評価しないことが大切です。

ステップ4:連続運転で変動を確認する

ビーカーで良くても、連続設備では薬注遅れ、混合不足、短絡流、汚泥引き抜き不足が生じます。必要に応じてパイロット試験や実機条件を想定した確認を行います。

よくある質問

Q1. PACの最適添加量を計算だけで決められますか?
A. 原水組成が不明なまま正確に決めるのは困難です。概算後、実液で段階試験を行います。

Q2. 高分子凝集剤は必ず必要ですか?
A. 固液分離方法やフロック性状によります。無機凝集剤だけで十分な場合も、併用で沈降・脱水性が改善する場合もあります。

Q3. どのくらいのサンプル量が必要ですか?
A. 試験項目と条件数で変わります。採水前に、必要量、容器、保存条件を試験担当者へ確認してください。

Q4. 白色と黒色の排水を混ぜて試験してもよいですか?
A. 実運転で混合されるなら混合試料も必要ですが、原因を切り分けるため各排水の個別試験も有効です。

まとめ

凝集沈殿は、水性塗料排水の粒子状成分を取り除く中核技術です。しかし、凝集だけで放流水質や再利用水質を満たせるかは、塗料組成と排水条件次第です。実排水を使い、上澄み水質、汚泥量、脱水性、原水変動まで比較して初めて、設備に採用すべき条件が見えてきます。

実排水によるジャーテストの相談

参考資料

  • Adnan Aldemirほか「Determination of optimum treatment conditions for paint industry wastewater with the coagulation/flocculation method」(2026-08-20確認) https://doi.org/10.5004/dwt.2021.26624
  • E. D. Şengülほか「Microfiltration of water-based paint effluents」(2026-08-20確認) https://doi.org/10.1016/S1093-0191(02)00122-3
  • A. Ucarほか「Treatment and recycling of highly polluted water-based paint wastewater」(2026-08-20確認) https://doi.org/10.5004/dwt.2011.2111
  • 環境省「排水基準を定める省令」(2026-08-20確認) https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html

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