「有機溶剤系から水性塗料に替えたので、排水処理も簡単になるはず」。そう考えていたのに、処理水のCODやSSが下がらない――塗装現場では起こり得る問題です。
水性塗料は、水を主な媒体として扱いやすくした塗料です。しかし、排水が水だけになるわけではありません。塗膜をつくる樹脂、色をつける顔料、分散剤や界面活性剤などの添加剤が洗浄水へ移れば、排水処理設備には相応の負荷がかかります。
結論:水性かどうかではなく「何が、どの状態で、どれだけ入るか」を見る
水性塗料排水を安定処理する第一歩は、次の2つを分けて考えることです。
- SSとして測られやすい顔料や塗料かすなどの粒子状成分
- ろ過しても水側に残りやすい樹脂、界面活性剤、有機成分などの溶解性・微細分散成分
凝集沈殿でSSが下がっても、溶解性の有機成分が残ればCODは十分に下がりません。反対に、CODの数値だけを見て凝集剤を増やすと、効果が頭打ちのまま汚泥量と薬品費だけが増えることもあります。
水性塗料排水に含まれる主な成分
日本塗料工業会の資料では、塗料は主に樹脂、顔料、添加剤、溶剤などから構成されます。水性塗料では水の割合が大きくても、塗膜を形成する固形分や機能性成分は残ります。
顔料・塗料かす
色や隠ぺい性を与える固形粒子です。洗浄時に剥がれた塗膜片とともにSS、色度、汚泥量へ影響します。凝集しやすい粒子であれば、薬品処理と固液分離で除去しやすい成分です。
樹脂・バインダー
塗膜の骨格になる成分です。微細なエマルションとして分散していたり、水中へ一部溶けていたりするため、見た目が澄んでもCODが残る原因になります。
分散剤・界面活性剤・その他の添加剤
塗料を安定させる働きは、排水処理では粒子同士が集まるのを妨げる方向に作用する場合があります。泡立ち、微細フロック、沈降不良などを伴うこともあります。
CODとSSは同じ指標ではない
環境省はSSを、ろ過で捕集される水中の懸濁物質として測定する方法を示しています。一方、CODは水中の物質を化学的に酸化するときに消費される酸素量を表す指標です。
つまり、SSは主に「浮いている粒子」、CODは「酸化される物質の負荷」を見ています。国土交通省の水質資料でも、COD・BODには溶解性と粒子性の画分があることが整理されています。
| 処理後の状態 | 想定される状況 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| SSもCODも高い | 凝集不足、固液分離不良、原水急増 | pH、薬注量、攪拌、滞留時間 |
| SSは低いがCODが高い | 溶解性・微細分散の有機成分が残留 | ろ過後COD、樹脂・添加剤、後段処理 |
| 見た目は澄んでいるがCODが高い | 無色または微細な有機成分が残留 | 分析値による評価、活性炭・生物・膜の試験 |
| 日によって大きく変わる | 色替え、洗浄、投入塗料の変化 | 発生工程別の採水、流量・作業記録 |
水性化で排水負荷が増えることもある
水性化はVOC対策などの面で有効でも、排水処理への影響は別に評価する必要があります。塗装機、配管、治具、ブースなどの洗浄に水を使えば、これまで別系統で管理していた塗料成分が水系へ集まることがあるためです。
特に注意したいのは、通常運転時の平均濃度だけで設備を判断することです。色替え直後や週末洗浄時の高濃度排水が短時間に流入すると、反応槽の薬品条件や沈殿槽の処理能力を超える場合があります。
COD・SSが下がらないときの確認手順
1. 排水を発生工程ごとに分ける
塗装ブース、色替え、ガン洗浄、配管洗浄、床洗浄を一括採水せず、工程別・時間帯別にCOD、SS、pH、色度などを確認します。日平均流量に加え、時間最大流量も記録します。
2. 原水とろ過水のCODを比べる
粒子を除いた後のCODが高ければ、凝集沈殿だけでは取り切れない成分が多いと考えられます。分析方法や前処理条件は分析機関とそろえて比較してください。
3. 実排水でジャーテストを行う
pH、無機凝集剤、高分子凝集剤、投入順、急速・緩速攪拌を変え、上澄みのCOD・SS・色度と汚泥量を比較します。見た目だけで薬品条件を決めないことが重要です。
4. 原水の均一化とピークカットを検討する
高濃度洗浄排水を別受けし、定量的に混合できれば、原水変動を小さくできます。ただし、混ぜてはいけない排水や反応性のある薬品がないかは、SDSと実際の工程で確認します。
5. 必要なら次段処理を組み合わせる
凝集後もCODが残る場合は、活性炭、生物処理、酸化処理、膜処理などを候補にします。どの方式も、対象成分、濃度、処理量、再利用の有無、濃縮水・廃棄物の扱いまで含めて試験する必要があります。
排水基準は放流先と地域条件まで確認する
環境省の一般排水基準にはCODやSSの基準値が示されていますが、CODの適用水域、下水道への排除基準、自治体の上乗せ・横出し規制、個別協定などで確認条件は変わります。設備条件を決める前に、所管行政・下水道管理者と最新要件を確認してください。
よくある質問
Q1. 水性塗料なら凝集剤を入れれば処理できますか?
A. 顔料や一部の樹脂は除去できても、溶解性CODが残る場合があります。実排水で上澄みの分析まで行う必要があります。
Q2. 透明になれば排水基準を満たしていますか?
A. 見た目とCOD、pHなどの分析値は一致しません。放流条件に応じた項目を測定してください。
Q3. 原水サンプルはいつ採ればよいですか?
A. 平常時だけでなく、色替え、設備洗浄、作業終了時など負荷が高くなる時間帯も採取します。
Q4. 増澤技研では何を相談できますか?
A. 実排水を用いた処理試験、既設設備の診断、凝集条件の見直し、後段処理や新設・改造の検討に対応します。
まとめ
水性塗料排水の難しさは、水を媒体にしていることではなく、顔料、樹脂、添加剤が粒子状・溶解性・微細分散の異なる状態で入ることにあります。工程別採水、原水とろ過水の比較、実液ジャーテストの順で原因を切り分けると、過剰な薬品投入を避けながら適切な処理方式を選びやすくなります。
水性塗料排水の処理試験・設備相談
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参考資料
- 環境省「排水基準を定める省令」(2026-08-20確認) https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html
- 環境省「浮遊物質量(SS)の測定方法」(2026-08-20確認) https://www.env.go.jp/kijun/wt_a09.html
- 国土交通省「河川水質試験方法(案)」(2026-08-20確認) https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kasen/suishitsu/pdf/s04.pdf
- 日本塗料工業会「Paint Industry in Japan 2024」(2026-08-20確認) https://toryo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/03/Paint_Industry_in_Japan2024.pdf
- A. Ucarほか「Treatment and recycling of highly polluted water-based paint wastewater」(2026-08-20確認) https://doi.org/10.5004/dwt.2011.2111
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