水性塗料への切り替えで洗浄水が増え、排水量と産廃費が課題になる工場があります。そこで候補になるのが、処理水を洗浄やブース循環へ戻す水再利用です。

結論:「どこへ戻すか」を先に決め、濃縮物まで含めて設計する

再利用設備は、処理水をきれいにする装置から考えるのではありません。再利用先が許容できる水質、必要水量、変動、塗装品質への影響を決めたうえで、必要な処理を逆算します。

また、「排水ゼロ」は水が消えることではありません。汚泥、膜濃縮水、使用済み活性炭、蒸発濃縮物など、分離した成分の出口が必要です。外部放流量がゼロでも、廃棄物量、エネルギー、薬品、安全性を評価します。

基本フロー:段階的に負荷を取り除く

1. 発生源分離・調整

色替え初期洗浄水などの高濃度排水を別受けし、通常排水への衝撃負荷を抑えます。調整槽で水量と濃度を均一化します。

2. 凝集

pHを調整し、無機・高分子凝集剤で顔料、塗料かす、凝集可能な樹脂をフロック化します。実排水によるジャーテストで条件を決めます。

3. 固液分離

沈殿、浮上、ろ過などでフロックを水から分けます。発生汚泥は濃縮・脱水し、性状に応じて適正処理します。

4. 仕上げろ過・活性炭

残留微粒子や一部の色・臭気・有機成分を取り除きます。活性炭は破過管理と交換費用が必要です。

5. 膜処理

MF・UFは微粒子の分離、NF・ROはより小さな溶解成分や塩類の低減に用いられます。前処理が不十分だとファウリングが進みます。膜透過水だけでなく濃縮水の処理先を決めます。

水性塗料排水を対象とした研究では、凝集・酸化・膜を組み合わせた処理や、処理水を工程へ戻す可能性が報告されています。ただし採用条件は排水組成と再利用用途に依存します。

再利用先ごとに必要水質は違う

再利用先の例 主な確認項目 注意点
一次洗浄 SS、色、臭気、残留樹脂 次工程へ汚れを持ち込まないか
ブース循環水 SS、泡、腐敗、臭気、塩類 循環で成分が蓄積しないか
床・容器の予備洗浄 衛生性、臭気、作業安全 ミストや接触リスクを評価
製造工程 製品規格に関わる全項目 品質部門の承認と厳格な管理が必要

飲用や人体へ直接触れる用途を想定するものではありません。用途、法令、衛生・労働安全、製品品質を個別に確認してください。

循環運転で起こる4つの蓄積

塩類の蓄積

pH調整剤や凝集剤由来のイオンは、循環しても消えません。腐食、導電率上昇、膜への負荷につながるため、ブロー水や脱塩を含めた物質収支が必要です。

溶解性CODの蓄積

凝集で取れない樹脂・添加剤を循環させると、水質が徐々に悪化します。活性炭、生物・酸化処理、NF・ROなどを検討します。

微生物の増殖

有機成分を含む循環水は、温度と滞留時間によって臭気やスライムの原因になります。殺菌だけに頼らず、死角のない循環、清掃、滞留管理を設計します。

微細固形物の蓄積

沈殿で取り切れない粒子が配管やノズルに堆積します。仕上げろ過と差圧監視、定期洗浄が必要です。

「排水ゼロ」を判断する7項目

  1. 現在の水使用量と排水量
  2. 工程別の水質・水量変動
  3. 再利用できる用途と必要品質
  4. 回収率とブロー・濃縮水量
  5. 汚泥・交換材・濃縮物の処分方法
  6. 薬品、電力、膜・活性炭交換を含む運転費
  7. 異常時に安全に排水を保持できる容量

外部放流を完全にゼロにするほど、濃縮工程のエネルギーと設備が増える傾向があります。まず一次洗浄など影響の小さい用途で部分再利用し、回収率を段階的に高める方法も現実的です。

導入前に行う試験

  • 凝集・固液分離後のCOD、SS、色、pH、導電率
  • 活性炭の吸着試験と破過予測
  • 膜の透過流束、除去性能、洗浄回復性
  • 循環模擬による塩類・CODの蓄積
  • 再利用水を使った洗浄性・塗装品質の確認
  • 汚泥・濃縮水の発生量と処分性

よくある質問

Q1. 凝集処理水をそのまま洗浄に戻せますか?
A. 用途と水質によります。溶解性COD、塩類、臭気、微生物、製品品質への影響を確認します。

Q2. ROを付ければ排水ゼロになりますか?
A. ROでは透過水と濃縮水に分かれます。濃縮水の出口を別途設計する必要があります。

Q3. 再利用は必ずコスト削減になりますか?
A. 水単価、排水・廃棄物費、薬品、電力、消耗品、保守で変わります。総費用で比較してください。

Q4. 小さく試すことはできますか?
A. 実液のベンチ試験、用途を限定した部分循環、パイロット試験の順で段階化できます。

まとめ

水性塗料排水の再利用は、凝集だけでなく、固液分離、仕上げ処理、濃縮物管理を一体で考えるテーマです。再利用先の品質から逆算し、実排水試験と物質収支で回収率を決めることで、用水・排水・産廃の削減を現実的に評価できます。

排水再利用・水循環設備の相談

参考資料

  • A. Ucarほか「Treatment and recycling of highly polluted water-based paint wastewater」(2026-08-20確認) https://doi.org/10.5004/dwt.2011.2111
  • E. D. Şengülほか「Microfiltration of water-based paint effluents」(2026-08-20確認) https://doi.org/10.1016/S1093-0191(02)00122-3
  • A. K. Körbahtiほか「Treatment of paint manufacturing wastewater by coagulation and electrochemical methods」(2026-08-20確認) https://doi.org/10.1016/j.watres.2016.05.006
  • 環境省「排水処理技術一覧」(2026-08-20確認) https://www.env.go.jp/en/water/wq/ine/pdf/technology/Technologies%20List-jp.pdf

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